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【時事】NTT、予防医療に参入

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こんにちは。十返舎テックです。

NTTが2019年7月1日付で新たな子会社を設立するというニュースが出ました。AIを活用してゲノム情報と健康診断結果を分析し、生活習慣病の予防に関するサービスを2020年にも開始し、予防医療事業に参入するという内容です。

本日はこのニュースを取り上げたいと思います。

サービスの内容

今回のニュースを一部引用します。

NTTは7月1日付で100%出資のNTTライフサイエンス(東京・千代田)を設立する。グループ従業員のデータでAIの分析精度を高め、他の企業向けに20年にも解析や予防医療のアドバイスを始める。

契約した企業の従業員のゲノム解析のほか、健診データとゲノム解析を組み合わせた分析を手掛ける。従業員それぞれにより効果的なアドバイスをして企業の健康保険組合の医療費支出を減らす狙いだ。

引用元:2019年5月7日付 日本経済新聞 イブニングスクープ

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44473660X00C19A5MM8000/

今回のニュースを見る限り、NTTがやろうとしていることは3つに大別できます。

  1. グループ会社従業員の健康診断結果から、生活習慣病の予測モデルを構築する
  2. 契約先企業の従業員がサービス利用を希望した場合、ゲノム解析を行うサービスを提供する
  3. サービス利用を希望した従業員のゲノム解析結果と健康診断結果、2つの情報からその人の生活習慣病に罹患するリスクや生活改善アドバイスを実施する

1つ目の内容はサービス開始前に実施することで、あとの2つが実際のサービスになります。

記事の中では「AI」とか「ゲノム」といったバズワードが多用されていて、一見、何かすごいことをやりそうな雰囲気ですが、実際のところどうなのでしょう?

生活習慣病の予測モデル構築

まず、生活習慣病の予測モデル構築ですが、同様の取り組みは第一生命と日立製作所で既に実施されてます。


「Hitachi Social Innovation Forum 2018 TOKYO」 BS2 - AIとビッグデータで拓く金融デジタルイノベーション - 日立

ここで何が言いたいかといいますと、どちらが早いか遅いかということを追求したいのではなく、NTTの記事にあるように“AIを活用した予測モデル構築”とは、あたかも機械が勝手にモデル構築してくれるように見て取れますが、決してそうではないということです。

「AI」という言葉は近年バズワードになってきましたが、予測モデルの構築は統計学に明るい有識者が分析手法を用いて行うものです。
予測のために使用するデータは分析前に特異なデータを洗い出し、それを除外するか否かをきちんと検討するクリーニング作業を実施する必要がありますし、分析結果の解釈は分析者では行えないので、今回の例でいうと医学に明るい有識者による意見付けが行われます。

これらの分析作業は古くから行われてきました。何が今までと違うかというと、大量データを用いた複雑な統計分析処理が、コンピュータのハードウェアスペック向上に伴い、従来より短期間で実現可能になったという点です。
いわゆる機械学習と呼ばれるものですが、それは機械が何かを独自で判断する代物では一切ありません。

第一生命と日立製作所の例を見ても、NTTが生活習慣病の予測において新しい何かを実施したという事実はないと考えます。

ゲノム解析サービスの提供

ここ数年で一般消費者向けに遺伝子検査サービスを提供する企業が増えております。
※ゲノムとか遺伝子、DNAと似たような用語があります。
遺伝情報を持っているDNAを遺伝子と呼び、ヒストンという物質に巻き付いているDNAを染色体と呼び、遺伝子や染色体をすべて含んでゲノムと呼びますが、ここではすべて同じと考えてください。

費用は分析結果のバリエーションで異なりますが安いもので5,000円程度、体質や生活習慣病、それ以外の疾病罹患リスクや先祖のルーツなどフルセットで検査するサービスを活用すると大体3万円前後掛かります。一般消費者向けに提供されている解析サービスを“DTC遺伝子検査サービス”と呼び、それらは医療行為には該当しないため分析のための検体に血液を使用することが出来ず、唾液を使用します。

日本でサービスを提供しているDTC遺伝子検査サービス事業者は、倫理上の観点から遺伝子との因果関係が明確な疾病について分析を実施しておりません。

ガンもそうですが、親がガンに罹患したからと言って子どもが100%ガンになるかというとそうではなく、疾病の発症には喫煙や飲酒、生活環境など多くの外的要因が複合的に関係するケースがほとんどです。

DTC遺伝子検査サービスの分析対象は、そのような多因子遺伝疾患と呼ばれる疾病の罹患リスクです。生活習慣病といわれる疾病たちは、その名の通り生活習慣の影響によって発症しますので、多因子遺伝疾患に該当します。

DeNAグループが提供するMYCODEというDTC遺伝子検査サービスを受けたときの私の結果です。

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MYCODE 検査結果

こんな感じで結果を見ることが出来ますが、占いの域を出てないなぁというのが正直な感想です。掲載している疾病に限らず、どの分析結果も人よりリスクが高いとか低いとかの評価です。

遺伝子検査はとても繊細な性質を持っております。医療行為ではないサービスが多因子性疾患に分析対象を絞っているのもそのためです。例えば、100%発症する遺伝子疾患のキャリアと分かったとき、それは遺伝なのであなたのご両親どちらかも同様のリスクを保有することになります。あなたに子どもがいるのであれば、その遺伝子は子供にも受け継がれているかもしれません。もしその疾患の治療法が確立されていないとしたら、遺伝子検査結果を、あなた含めて血縁者はどのように受け止めればよいのでしょうか?

生活習慣病に絞ったNTTのサービスはおそらく、DTC遺伝子検査サービス事業者が提供している水準と同じであると推察します。

とすると、先ほどの予測モデル構築と同様、NTTが世界に先駆けて新しいことを実施するというわけではなさそうです。

ゲノム解析結果と健康診断結果を分析する

この取り組みは新しいですね。

記事の中でも、健康診断結果が基準値内でもゲノム解析結果を元に生活習慣のアドバイスを実施するとあります。

・・・じゃあ、DTC遺伝子検査サービスでいいじゃん

って思うのは私だけでしょうか。

2つを掛け合わせて何をどのように分析するのでしょう。そもそも、予測モデル構築時には、大量の健康診断受診結果はあるかもしれませんが、大量のゲノム解析結果なんて絶対にないので、ゲノムを用いた予測モデルを作れるわけがないんです。

予測モデルがない中で、ゲノム情報をどのように活かすのか??

「あなたの健康診断結果は基準値内で、予測モデルを活用した結果でも糖尿病の罹患リスクは低いですが、ゲノム解析の結果が糖尿病罹患リスクが人より3倍高いため、食生活の改善や運動を積極的に行いましょう!」

こんなアドバイスがせいぜいではないかと思うのです。ゲノム解析と健康診断の相乗効果が全くないですね・・・ 笑

結局のところ、一番知りたい部分については記事になっておらず、(飯のタネですし)そのベールが明らかになることもないでしょう。少なくても、バズワードに踊らされないように気をつけたいと思います。

 

NTTの発表と生命保険

NTTは生活習慣病の予測分析に以前から興味を持っており、発症リスクの予測が保険会社に対してビジネスになると考えておりました。2018年には生活習慣病の発症リスクの予測モデル検証を共同で実施する保険会社を募ったほどです。

どこの保険会社と実際に検証したかは公表されておりませんが、その経験を踏まえての今回の発表と推察します。

今回の発表は保険会社向けのサービスではなく、企業が実施する定期健康診断におけるサービスであることが伺えますので、保険会社との予測モデル検証では、ビジネスに活用することは難しいと結論づけたか、あるいは、まだその検証は継続中ということでしょうか。

生命保険加入時の審査に遺伝子検査の結果を活用するということは、差別につながる恐れがあります。2017年には生保各社の契約書類に、保険加入時に家族の病歴等を判断材料に使用するような遺伝に関する記載があったことが問題視されました。

実際に使用されていたのではなく、昔の記載がそのまま残っていたということなのですが、本人にはどうしようもない遺伝に関する部分で社会的な役割を担う生命保険への加入ができないという状況は、決して許されるべきものではありません。このような議論は以前からありますが、昨今のテクノロジーの発展で遺伝子検査がより身近になったことで、遺伝子の取扱いについては、生命保険会社にとって古くて新しい問題になりました。

最後に

自分がある疾病に罹患するリスクが高いと認識し、その発症前に保険に加入することを“逆選択”といいます。

この“逆選択”を防ぐために保険会社は保険加入者に対して、直近の体調や医師による検査歴などを告知すること求めており、虚偽の告知をした場合、給付金の支払いやそれまで受領した保険料の返還等を拒否することが出来ます。

遺伝子検査結果を知りつつ保険加入を考える人も一定数存在するでしょう。遺伝子検査が加入時審査で使用できない以上、“逆選択”の増加は避けられません。NTTが予防医療に参入することのインパクトは大きいと考えます。これがきっかけでより一層、遺伝子検査が私たちの身近なものになった時、生命保険会社は“逆選択”とどのように向き合っていくのか。今後の動向に注目です。

本日はここまで。最後まで読んでいただきありがとうございました。